セビージャ対アルメリア

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ホームイベントBBLセミナー2003年度 自己責任・自己選択社会における雇用のセーフティネット;雇用保険改革をめぐって 印刷 開催日 2003年6月24日 スピーカー 樋口 美雄 (慶應義塾大学教授/RIETIファカルティフェロー) モデレータ 児玉俊洋 (RIETI上席研究員) 議事録 モデレータ:日本経済の再生を図る上で、雇用システムのあり方、その中での雇用のセーフティネットのあり方をどうするのかという事は避けて通れない問題です。先般、雇用保険法の改正が施行されたところでもあり、当研究所のファカルティフェローとしてもご尽力いただいている樋口先生に講演をいただく事になりました。樋口先生は1980年慶應大学の大学院商学研究科卒で、商学博士号を取得されています。それ以降、コロンビア大学・スタンフォード大学で客員研究員、それからオハイオ州立大学・一橋大学で客員教授、現在は慶応大学商学部の教授をされています。政策面でも、労働政策審議会の雇用保険部会長、民間需給制度部会長を歴任されています。雇用保険部会長は現職ではありませんけれども、本日の話題には大変精通した方でいらっしゃいます。『労働経済学』『雇用と失業の経済学』『人事経済学』などの著書があり、当研究所におきましては、労働移動研究を中心にご尽力をいただいています。 雇用保険の問題点雇用保険改革については、前回の改正で私は雇用保険部会長という立場にあり、そう思い切った事が言えませんでした。今日は、もう自由の身になって、個人的な意見が言えます。そこで、今回どのような改正がなされ、残っている課題は何かについて意見を述べさせていただきたいと思います。雇用保険を考えてみますと1990年代前半の頃、まだバブル景気が崩壊して間もない頃というのはそれなりに累積の黒字がたくさんあり、保険料率を引き下げろといわれた時期もありました。そこで、一時的に雇用保険料率を引き下げたこともありました。ところが、その後失業率が急速に上昇するにつれ、給付額が伸びる一方、雇用者が減り、給与が低下することによって財政収入が減り、ついに単年度では赤字に陥るという状態になりました。今までは過去の累積を食い潰すことでこれを消化してきたわけですが、3年ぐらい前からどうも雇用保険財政自身が破綻するのではないかと危惧される状況になり、前回の改正を行いましたが、その見通しが甘かったため、再び本年度の改正となったわけです。やはり、雇用保険財政が安定することが重要なのは申し上げるまでもないことです。では、そのためにはどうすればいいかということになります。1つは保険料率の引き上げ、要するに収入をどう確保するかという問題、もう1つは支出、すなわち給付をどう削減していくのかという、その両面における改革がどうしても必要になってくるわけです。これを考えるためには、やはり時代の変化と共に労働市場も大きく変わってきているわけですから、その変化に即した雇用保険改革が必要になってくるだろうと思います。 労働市場はどう変化したか申し上げるまでもなく、失業率はここのところ急速に上昇しました。91年の完全失業率は2.1%ですが、昨年は5.4%。しかも完全失業者として実はカウントされない、非労働力化してしまった、すなわち職探し自体を諦めて無業でいる人達の数も、かなりの数に上ってきています。ただこの非労働力化の部分でも、大きな変化が起こってきています。従来この非労働力化した人達というのは、主に既婚女性でした。景気が悪化してくると、女性は就職をあきらめ、労働力率自身が減ってしまうはずなのですが、98年以降の景気悪化の中では、女性の労働力率はかなり高水準で推移しています。たとえば1974年のオイルショックの時には、この女性労働力率は2~3%の減少を示していますが、今回については減少は1%以内です。その一方で、労働意欲喪失が起こっているのは、1つは高齢者、男性を中心とした特に年金層においてです。もう1つは若年層で、フリーターの増加という言葉で示されるような、学校にも通わない、そして就職もせず求職活動もしてないというような人達の数が、急速に増加しています。こういう現象に象徴されるように、どうも労働市場の従来の構造が、大きく変わりつつあるようです。そこで5点ほど、最近の労働市場で何が起こっているか、何が変わってきているのかについて述べてみたいと思います。(1)まず、地域によって労働市場に大きな差があるということです。特に地方における雇用情勢の悪化が、大きく目につくようになってきています。東京での議論と地方での議論に大きな違いがあり、東京は建設ラッシュなのに地方においては雇用機会が全くないというような事が起こってきています。その理由の1つはグローバル化の影響で、日本企業が生産拠点を海外にシフトさせたことです。そのためにどこの雇用が減っているかというと、やっぱり80年代の末にバブル経済の中で人材難を訴え地方に進出して行った大量生産工場、こういったところが閉鎖されたり、雇用削減しています。しかし海外に進出したところと進出してないところでの雇用削減を比較すると、進出した企業は、当初は雇用削減が大きいのですが、その後は回復します。ところが進出してない企業は、90年代前半における雇用の落ち込みは小さかったのですが、95年以降においては進出しているところよりも、大きく雇用を減らしています。つまり、海外直接投資をストップすれば自動的に国内雇用は安泰するわけではなく、グローバル化をうまく利用している企業としてない企業の間では、結局、競争力に差が付いてしまうということなのです。同じような事はリストラについてもいえます。海外進出と同じように雇用削減、たとえば分社化したとか、あるいは逆に企業統合したところを見ますと、その後だいたい4年間はしなかったところに比べて雇用機会の減少が起こる。しかしそこで競争力が徐々に回復して来て、5年目以降はむしろしなかった企業よりも雇用の減少は少なくてすむ。リストラを強制的にストップさせれば一時の雇用削減は回避できるかも知れませんが、長期的には逆効果になると思います。また、グローバル化の影響は別の意味でも地方の雇用を悪化させています。グローバル化には外資系企業が日本に入って来るという面もあります。これによって雇用の創出も期待できるのですが、実際に日本に入ってきている企業の業種は金融関係やソフトウェア関係など、都市型の産業が多いのです。日本に来ている外資系企業のだいたい7割が東京都に集中している。そして1割ずつが大阪と神奈川です。この3都府県で9割近くを占めてしまう。しかも東京に出て来るところほど大企業が多いため、雇用者ベースで見ますと90%を上回る比率がこの3都府県に集中しているわけです。他の地域にとっては、海外への工場移転でまずマイナス、しかも外資系企業はやって来てくれないわけで、それだけ東京とその他の地方におけるグローバル化の影響に大きな違いが生まれて来ているといえると思います。(2)公共事業の問題。公共事業費がここのところ大きく削減されています。GDPに占める公共事業費割合、公的資本形成の割合は90年代に入って一時上昇しました。これによって地方の雇用は、90年代前半はそれ程厳しくなく、むしろ大都市の方が大変だったのですが、95年以降には逆転しています。政府が創り出している雇用が、全体の就業者の何パーセントぐらいになっているのかというと、波及効果まで含めて計算しますと、たとえば98年の高知県が約39%です。しかも90年と99年を比較すると全国的に政府の依存度が7~8%高まっています。高知県では、10%を超える程この依存度が高まっているのですが、一方では財政支出がカットされています。その結果、地方の雇用の厳しさが、ますます拡大しているといえます。それに代わる民間部門での雇用拡大も起こっていません。(3)地元への定着率の問題。少子化で長男長女が多い社会になり、地元への定着率が高まっています。都道府県の県境を越えての人口移動は高度成長期に比べて半分ぐらいに減りました。この人口移動を通じての労働需給の調整機能も、従来のような効果は薄れてきています。(4)失業率の変化。たとえば男性の失業率の悪化です。97年ぐらいまでは女性の失業率の方が高かった。ところが97年以降この関係が逆転しています。つまり、男女の労働市場における役割というものが大きく変わってきているのです。1つは産業構造が変わったことです。従来、男型の産業といわれてきた製造業や建設業が雇用を減らす一方でサービス業、特に医療あるいは介護とか福祉そういった部門で雇用が増えています。こういった部門は女性の就業者が多いわけです。しかも、パート労働者は増加する一方、フルタイマー正規社員というものが減少していく傾向にあります。女性はこのパート労働が多いために、結果として女性の雇用が増えるという現象が起こっているわけです。今のは需要の面から見た男女の役割分担の変化ですが、その一方で供給側、すなわち各家庭においても男女の役割が大きく変化しているようです。従来、女性は雇用機会がなければ、そのまま非労働力化し専業主婦になる人達が多かったわけですが、ここのところその動きが見られない。やはり夫の所得が減ってしまった、失業してしまったことが原因で女性が非労働力化されない傾向がある。以前ははまだ経済的にゆとりがあったために、専業主婦になるだけ経済的余裕があった。ところが今や共に働くことによって、はじめて家計が成り立つというような状況が起こってきているのです。(5)若年失業率の上昇。これは特に学歴間における差が広がってきていると思われます。アメリカでは、90年代に入って所得格差拡大の問題が指摘されていました。そこでいわれているのが、スキルドワーカーとアンスキルドワーカーという言葉です。熟練労働と不熟練労働というように訳されていますが、スキルドワーカーというのは高学歴労働者、アンスキルドワーカーというのは、たとえば高校をドロップアウトした人やあるいは高卒の労働者をさしています。この学歴間の所得格差の拡大がアメリカでは起こっていたわけです。日本においては、96、97年ぐらいまでは学歴間格差が小さく、しかもそれが拡大する傾向が表れていないとされてきましたが、それ以後は、そうでもありません。学歴別に求人倍率を見ますと、確かに大卒も求人倍率が落ちているわけですが、それ以上に落ちているのは特に地方における高卒の求人倍率です。求人倍率を見ますと、特にそれまでは大量の採用をしてきた製造業が、採用を手控えるというような事が起こる。あるいは女性の高卒の人達を大量に採用してきた一般事務職が、ITにより合理化され、派遣に置き換えられて、新規採用をする企業が特に地方で減ってきています。 雇用形態の変化それだけ厳しい状況なのですが、すでに雇われて働いている人達の間においても、企業と労働者の間でそれぞれの役割関係に大きな変化が起こっているのではないかと思います。具体的に言いますと、従来は「保障と拘束」の関係がありました。すなわち企業の方が、所得を保障する。たとえば年齢が高くなり、子供が学校に行くなどの理由で必要生活費が上昇すれば、それに見合った処遇をしていく、年功賃金というものがあった。また万全の雇用保障が特に大企業にはありました。そういう保障をする一方において、今度は働く者にその代償を求めていく厳しい拘束性を課すということもありました。たとえば転勤の問題。通常1週間とかあるいは10日前に辞令出されますと、国内であればもうどこでも転勤するのが普通です。海外への辞令においてもせいぜい1カ月前でしょう。あるいは残業を断った労働者に対して解雇通達をすることも裁判所は認めていた。日本では、そういった拘束を課す代わりに雇用を保障するという関係が、特に正社員については成り立ってきたと思います。ところが終身雇用をやめて、業績給を取り入れ、労働者の責任が重くなるというような動きが起こってきている。その一方で「自己選択」は高まってきているのかというとそうとはいえません。そういう流れと同時にもう1つ注目しておかなければならないのは、雇用形態が多様化してきていることです。先程も言いましたように正社員が減らされている。その一方で、有期雇用とかパート労働者が増えている。あるいは派遣労働や請負労働も増えています。中には雇用関係にもないような dependent contractor といわれている、業務委託的な形での就業形態、こういったものも増えてきています。この雇用形態の多様化は働く側の選択肢が増えているのではなく、むしろ企業側の雇い方についての選択肢が増えているといえます。それを果たして雇用形態の多様化と呼ぶのが適当なのか。雇用の2極分化が起こっている。あるいは、人によっては労働市場の二重構造化が復活してきているという言い方をする人もいます。ともかくここで均衡の問題、格差の問題というものが起こってきているのは事実でしょう。 日本の雇用政策の問題点雇用政策には、雇用を創り出すあるいは安定を図るための公共事業などを指す場合と、職業紹介や能力開発など従来の労働省が行ってきたような政策を指す場合があります。世界各国のGDPに占める公共事業費割合を比較すると70年代の前半では日本は5%、ドイツやイギリスでも4%後半で、かなり各国とも公共事業費割合が高かったといえます。しかし70年代の後半から、EU諸国を中心としてこの比率が下げられていきました。ヨーロッパでは公共事業の、特に雇用面についての効果について疑問の声があがったのです。公共事業というのは麻薬と一緒だという考え方があります。苦しくなった時に欲しくなる。そして切れるとまた新しい薬が欲しくなる。これを続けているうちに自律心を失っていくというわけです。つまり雇用政策としての公共事業の役割というのは、やはり限定的な効果はあるかも知れないが、持続性がないということです。ところが日本については少なくとも90年代前半までは、公共事業は高水準を維持できました。その一方で狭い意味での雇用政策費、すなわち従来労働省が担当してきた政策に対する支出額については、日本は90年代前半で0.35%です。アメリカでも0.7、イギリス・ドイツはそれ以上で、さらにフランスでは2.6%、90年代後半で3%を超えていますから、独仏では公共事業費とほぼ等しい額が雇用政策費として使われてきたわけです。それに対して日本は、公共事業費の10分の1かあるいは20分の1程度しか雇用政策にお金が使われてこなかったわけです。しかも、公共職業紹介や障害者対策といった積極的雇用対策は0.13%にすぎません。私は「雇用戦略」といったスタイルを、日本でもとるべき時にきているのではないかと思っています。それぞれの省庁がばらばらに行っている縦割りの雇用政策あるいは雇用に関する政策を一本化すべきです。その時の目標は、失業率の引き下げという事ではなくむしろ就業率の引き上げにおくべきです。政府に頼らずに自ら生きていける人達、働く事によって所得を稼げる人達を、どのように政策的に増やしていくのかが高齢化社会では重要なポイントになると思います。welfare to work という言葉がヨーロッパでは使われていますが、日本でも同じようなスタンスから考えるべきです。失業率を引き下げればいいのなら、たとえば非労働力を増やせばいいわけです。引退してしまえば、失業者としてもカウントされませんので、それで失業率は下がるわけですが、それでは本来の自立した個人といったものを助長する事はできないでしょう。ですからむしろ就業する人達、15歳以上人口に占める雇用とか自営とかそういった形で働く人達の比率をどう上げるかということをターゲットに考えていき、税制や社会保障制度もそれに則した考え方を重視していくべきではないかと思っています。たとえば1986年に男女雇用機会均等法が成立し、働く女性を後押ししようという労働省の考え方があったにもかかわらず、同じ政府の中で全く逆の方向を指向する政策がとられました。同じ時期に配偶者特別控除が作られ、専業主婦の控除額が2倍に増えたのです。厚生年金についても、第三号被保険者が設定されたのが同じ時期です。片方では女性の働き易いような環境を作ろうと言いながら、片方では専業主婦を増やそうという施策が行われた。車で言うなら、ブレーキとアクセルを同時に踏むようなものです。それぞれの省庁がばらばらにやるのではなく、たとえば内閣府とかあるいは経済財政諮問会議とかそういったところで、一本化した「雇用戦略」といったものを施行するような事が必要と思われます。 雇用保険制度改革の実際雇用保険は失業等給付と3事業という2つの大きな柱からなります。失業等給付については労使折半、一方3事業については使用者、雇用主の全額負担という別の会計制度です。失業等給付の中身は大きく4本の柱に分かれています。1番目の柱は求職者給付です。その中に一般求職者給付すなわち失業給付が含まれています。さらに高年齢とか短期雇用特例、日雇労働者求職者給付といった給付があります。2番目の柱が就職促進給付です。今回の改正では特にこの就職促進給付のところが強化されています。そして3番目は教育訓練給付です。日本ではこれまで能力開発については、たとえばそれを行っている企業に対して助成をし、間接的に労働者の能力開発を助成していくシステムをとっていたのに対して、失業等給付という失業保険の本体の方にこの教育訓練給付が盛り込まれる事によって、求職者あるいは在職者の能力開発に直接的にお金を出すという制度を作ったわけです。もう1つの雇用継続給付は、たとえば60歳を過ぎて就職している高年齢者の人達で、しかも60歳の時に比べて給与がダウンしたというような人達に対しては、そのダウンしたものの中の一定割合を政府が助成しますというような給与助成の方法です。この点についても育児休業中あるいは介護休業中の、給与のダウンした部分についての補填をするというような制度を設けました。3事業とは雇用安定事業、能力開発事業、雇用福祉事業で、全額、雇用主負担によりまかなわれている。雇用保険制度の改革については、まず財政の健全化が、今回の見直しをする直接的なきっかけになったといえます。平成13年度の前回の改正では保険料率の引き上げを行い、同時に国庫、一般財源から出ている給付額が減額されていたのを元の水準に戻しました。しかし、それでも赤字は増大しつつあるため、15年度の改正がなされたわけです。財政が健全化しないのはやはり失業給付が減らないためです。その1つの問題点は受給資格者がどういうタイミングで再就職をしているのか、ということです。給付の手続きに行ってからの待機期間中、自発的に離職した人についての3カ月間の給付制限期間中、給付期間中、さらに給付期間が終わってから1カ月以内、2カ月以内に就職した人がそれぞれどれだけかという数字を見てみると、給付が切れてから1カ月以内に就職している人達の割合が一番高い。つまり、給付期間中はともかく給付を受けて生活しているわけです。それが終わった段階で、再就職する人達が多いわけです。なぜこういった事が起こっているかというと、1つの理由は、給付額が多いために急いで再就職するよりも目一杯給付をもらったほうが得だということかもしれない。日本では給与の何パーセントが給付されるのかというと大体60%から80%と設定されてきました。しかも非課税です。ですから課税ベースで見ると70~90%程になります。また、在職中の給与によって決まってくる基本手当とその人が実際に再就職した時にもらう賃金を比較すると、再就職すると、失業手当よりもむしろ給与が下がってしまうというような人達が高所得であった人などでは少なくない。そこで今回の改正では給付率を下げ、少なくとも再就職した方が給与は上がるようにしたのです。これで、再就職が促進される事を期待しているわけです。もう一方で財政を健全化したいなら、一般財源からの25%の支出をもっと引き上げたらどうか、という議論もありました。ところが日本では他の国に比べて、この一般財源からの給付額というのがもう既にかなり高い水準になっているので、今回については、据え置きになりました。その代わり、保険料率の引き上げについては待ったがかかった。一般財源から、一定のプール額を用意し、どうしても雇用保険が破綻しそうになったならばそこから給付を出す、そういった別枠を用意し、保険料率の引き上げについては2年間待つ事に落ち着いたのです。 今回の雇用保険制度改革について今回の改正で私が注目している点の1つは、パート労働者に対する雇用保険です。前回の改正でもパート労働者の雇用保険加入の条件は緩和されました。従来、年収が90万円以上、労働時間が一般労働時間の2分の1以上、1年を超えて雇用が見込まれるもの、という3つの条件がかけられていたのですが、前回、年収要件が撤廃されました。これにより、パート労働者で短時間雇用保険に加入する人達が、対前年で2倍近く増えてきています。ただし、前回の改正では給付については一切手がつけられなかったのですが、今回は一般労働者とパート労働者の給付について一本化が進められました。解雇・倒産等についてはパート労働者の給付日数を通常労働者の方に拡大し、逆に自発的に離職した人達については一般労働者の方をパート労働者に合わせたのです。すなわち総体としては給付日数を短縮するという改革が、今回なされたわけです。今後に残された課題について申し上げたいと思います。まず1つは雇用保険制度が安定していない事です。2番目は3事業の改革、柔軟化です。従来この3事業と本体の失業給付が別会計のため、本体の財源が不足になり、3事業の方が余っていても、このお金を回す事ができなかったわけです。この点についても時限立法でまわす事ができるように改革が行われましたが、私はこれらをそろそろ一本化していいのではないかと思います。3つめは失業保険給付期間の問題です。これを延長しろという声がしばしば聞かれますが、これ以上給付日数を増やした時に、先程見たように期限が切れてから就職しようという人達がもし多いとすると、失業者を増やしてしまうことになるため、やはり慎重であるべきではないかと思います。4番目が給付額の問題です。今は在職期間の給与に応じて給付額が決まっています。これを最低限生活費として必要な額を一律給付するというような方法に切り替えることも一案ではないかと思います。あるいは給付日数が延びるに従って給付額が削減されていくというのも1つのアイデアではないだろうかと思います。それによって再就職しやすいというような、そういうモラルハザードを回避するような制度を作っていくべきではないでしょうか。その一方、能力開発についてはやはりリカレント教育奨学金とか、税額における特定控除方式といったものをもっと広げていく必要があるのではないかと思います。日本ではこういう職業教育について直接個人を支援するシステムが、いまだに弱いといえます。特定控除は税制上認められているのですが、これが非常に利用しにくく、実際に使っている人は日本全体で10人いかないという状況です。そこを、もう少し使いやすい制度に改めていく必要がある。やはり自分で努力して能力を高めて再就職しよう、キャリアアップしようという人達を支援するという制度をどう作っていくかというようなポイントがあるのではないかと思います。そういった時に相談できるキャリアコンサルタントのような制度も強化していく必要があるでしょう。また、短時間雇用保険の加入要件の1つである「1年を超えて就業が見込まれる」かについても見直しする必要があるかも知れない。というのも、今度、労働基準法の改正によって有期雇用が1年から3年に延びました。これに伴った雇用保険の改革もポイントになってくるかと思います。さらに短期雇用特例求職者給付制度というのがあります。これは何かというと、雪等の天候理由により働けなくなった場合、特例として過去6年間雇用保険に入っていれば、一時金として給付を受けられる。その後、求職活動をしようとしなかろうと、あるいは時には多少働いても、一時金ですから支給される。しかも毎年同じ人がもらっている場合が多い。雇用保険が予期できなかったアクシデントとしての失業に対する保障制度だとするならば、もう廃止した方がいいのではないかと思います。また高年齢雇用継続給付制度についても、見直すべきでしょう。これは60歳を過ぎて就職している人について、60歳時に比べ給与が減額されればその減額された一定比率を賃金助成という形で足しますという事なんです。ですが、今までは正社員フルタイマーだった人がパート労働者になり、時間給は同じでも総額が減れば補助金が出るシステムになっている。これが逆に、モラルハザードを引き起こしている面はないのだろうかと思います。あるいは事実上企業への助成金になっている面もあるのではないかと思います。最後にやはり雇用保険制度をいろいろ改正しても、雇用機会の拡大こそが最大のセーフティネットなのは間違いないことです。どうすれば再就職しやすいか、自分の持つ意欲や能力を発揮できる状況を作れるのかが、やはり最大のポイントになると思います。 質疑応答Q:男性失業率の悪化の中に高齢者の労働力の低下というのがある。これはどういう事が原因でしょうか。 A:在職老齢が60歳代前半で大きく落ちています。その年代では在職老齢年金との関連があって、働いて収入があった場合に年金額がカットされることが一因であると思われます。雇用情勢が厳しい中では、苦労して仕事を探し給与を得るよりは、年金を受給した方がよいと考える人が多くなる。この問題は雇用保険の改正というよりも、年金制度の改正のところで、在職老齢年金制度をどう考えていくのかという問題ではないかと思います。たとえば61歳で本来在職老齢年金をもらわずに働き続けているというような人がたくさんいらっしゃるわけです。 この人達は現在の制度では年金を放棄するような形で65歳まで給付を受けられないという事であったわけですが、このモラルハザードを回避するために、たとえば61歳から65歳まで我慢したらその我慢した額の一定比率を65歳から給付に上乗せしていくというような改革をすることも考えられます。 Q:失業者給付の問題で、失業したらお金をもらえるという失業奨励金となって失業を誘発する効果があるものと思われます。本当に就職が困難な人に給付するための、監視コストのかからないうまい仕組みというものは考えられますか。 A:理想論からいえばすばらしいアイデアですが、現実的にはすこぶる難しい問題です。失業保険の目的には、失業している人達に経済的ゆとりを与える事によって、有効な適職活動をしてくれる、あるいは売り急ぎをしないで済むようにするというような点があります。見方を変えるとそれがモラルハザードを引き起こすという問題も出てくるわけです。 私は職業紹介と失業保険給付と能力開発というのは、やはり一体にならないとその効果は発揮できないと思います。たとえばハローワークは給付の決定をするだけ、職業紹介は有料で別の形でやったらどうかというような議論がありますが、私はこの考えには否定的です。給付を受ける条件として積極的に職探しをしていることをチェックする必要があり、結果的に職探しを促進することになる。早期再就職を促進するためには、給付制度に工夫を凝らし、早く就職したら、放棄した給付額の一定割合を支給するという方法も現にとられているし、給付期間が長くなっていくに従い給付額を減らしていくといった方法も考えられる。 アメリカの場合には失業保険が全額雇用主負担になっているわけです。労働者負担がない。そのために給付を受けることができるのも、会社都合、企業都合で失業した人だけです。 ただし、そうなると会社の方が給与を払わないですむわけだから、安易に解雇するというモラルハザードが起こる。そこでそのモラルハザードを阻止するために何をやっているかというと、そういう失業給付を受ける人をたくさん出せば次の年に保険料率を引き上げるというような、そういう形でそれをストップするという事をやっているわけです。 日本でもモラルハザードを回避させる仕組みというものが、やっぱり必要な時代になってきていると思います。 Q:日本は雇用政策費より公共事業費の割合が大きいですが、ヨーロッパのように雇用政策費の割合が大きくなるべきなのですか。個人的には失業した人にお金を与えるより、穴を掘って埋めるだけでも仕事した人にあげた方がいいのではないかという気がするのですが。 A:失業給付がヨーロッパで多いのは、失業者が多いために事後的な所得保障をせざるを得ないという面があります。そういう意味では、受動的な雇用対策です。ところがこれだけではなく、積極的な雇用対策(公共職業紹介、教育訓練、若年対策、給与助成、障害者対策)、つまり失業期間を短縮するとかあるいは失業を未然に防止する対策費も多くならざるをえないと思います。 ただ、公共事業は財政支出の拡大でもありますから、国民の借金になります。後の世代がこれを返さなければならない。という事は後の世代の人達のプラスにならなければいけない。掘った穴を埋めるのでは私はまずいのではないかと思います。これでは支出が切れたとたんに失業者が増えてしまう。政府が一時的にお金を出すにしても、それが呼び水となって支出がされなくなった後も、仕事は残るというようなものにしなければならない。そうしないと一時的な支出のはずがいつまでも恒常的に支出されなければならないという問題が生じてしまう。 実際、雇用における政府への依存度は高まっていますが、私たちの研究によれば経済効率の改善に繋がらないような公共事業費が増えているという結果が出ています。これからは箱物を造るよりは、ソフトウェア、情報に投資していく事が必要なのではないかと思います。同じ事が職業紹介についてもいえます。 今まではどちらかというと助成金、補助金を出す事によってそれぞれの政策を動かしてきたわけですが、これからは職業紹介あるいはキャリアコンサルタントまで含めて、政府が情報を提供する役割が重要性を高めると思います。もっとも政府が直接これを行うのではなく、民間を使って情報支援をする仕組みを政府が創るということも考えられる。 Q:1年半ほど前ワークシェアリングという事がかなり議論されていましたが、日本ではなぜワークシェアリングが定着しないのですか。 A:私もワークシェアリングは大賛成です。日本で普及しない理由の第1は、サービス残業です。企業にとってはタダで残業してくれるのなら、それを削減してまで人員を増やす必要はないわけです。2番目の阻害要因は、パートタイマーとフルタイマーの賃金格差が大きいということがある。時には同じような仕事をしているにもかかわらず、時間が短いから時間給も安いのは当然といった風潮がある。もっと時間給における均等化という考えを強化していく必要がある。そして、ワークシェアリングによって生まれる部分失業を補填するシステムがない、ということも影響しているかもしれない。ワークシェアリングには、雇用形態多様化型と緊急避難型がありますが、緊急避難型の場合、たとえば労働時間が今まで40時間だったのが30時間に減らされるということは10時間分の給与がカットされるわけです。この分が何らかの形で補填されないと従業員は納得できないでしょう。日本ではこの部分失業に対する給付を出すかどうかという議論すら起こっていないのですが、私はそろそろ検討する必要があるのではないかと思っています。 Q:日本においての雇用、労働市場の問題として、学校を出たての人、働き盛り、定年後の高齢者の3つの世代に分けて考えると、どこが一番問題なのですか。また、雇用形態の多様化と2極分化は今後どちらかの方向に向かっていくだろうと思うのですが、その際の見通しやお考えはありますか。 A:規制改革の形で派遣労働法の改正や労基法の改正が進んできています。他の国の動きを見てもやはり規制改革の最大の目的は雇用機会を拡大する事ですが、日本の場合、均等問題、均衡問題への配慮が足りないといえます。たとえば雇用形態が違ったとしても、同じ仕事をするのであれば同じような処遇を行うべきだという事です。 ヨーロッパではパートとフルタイマーについて、時間に差があったとしても時間給で考えたら同じ給与を払えという時間差差別禁止法という法律があります。やはり雇用機会の拡大と並行して、均等問題というのがおそらく日本でも今後大きな問題になってくるのではないかと思います。パートの問題あるいは派遣労働、請負労働さらに業務委託的な労働の問題という点について、均等という概念が非常に日本は弱いという感じがします。 世論調査を見ますと、格差の存在というのは好ましくないという意見は日本人には多いのですが、それは同じ企業の同じ呼称で呼ばれている労働者の間においてであって、呼び名や属性が違えばもう差があっても当然だというようなところがあります。男女やパートと一般労働者、あるいは年齢間における格差は、日本は一番大きい部類に入るのではないんでしょうか。 もう1つの世代間の問題ですが、これはすこぶる難しい問題です。短期的な影響は中高年層への影響が強い、逆に長期的な影響は、若年層への影響が強いのではないかと思います。 若年が失業をしてしまうと、やはり10年20年のスパンで考えていくと、その国における競争力の弱体化とか治安の問題が起こってくる。ボディーブローのようにじわりじわりと効いてくるわけで、世代間の奪い合いというものを回避するための政策を検討しなければならないでしょう。これまでは高い経済成長があったから、この問題を覆い隠してきた。そのために実は成長というものが、本当は必要じゃないかと思っています。 モデレータ:関連情報の紹介として、当研究所においては、樋口美雄ファカルティフェロー、阿部正浩ファカルティフェロー及び児玉を中心として、労働移動研究を実施しており、『雇用動向調査』や『企業活動基本調査』の調査等を使用した分析や米欧研究者との共同による入職経路に関する日米欧比較などを実施しています。その成果について、今後逐次公表していくこととしています。 この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。 イベント シンポジウム ワークショップ BBLセミナー 2024年度 2023年度 2022年度 2021年度 2020年度 2019年度 2018年度 2017年度 2016年度 2015年度 2014年度 2013年度 2012年度 2011年度 2010年度 2009年度 2008年度 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